小説・センカク
ズドーン、ズドーン、ものすごい音が鳴り響いていた。土煙こそ上がらないが、超硬度コンクリートの要塞が身震いしていた。リモラとナタガラの二人は画面に見入った。目が離せなかった。
その時、遠くの方で火柱が上がった。一瞬、静寂が広がった。自衛隊が反撃したのだ。
自衛隊ってスゲー、さすがニッポンだぜ、やっぱスゲーよ、指につまんでいたじゃがりこサラダを思い出し、リモラは口に放り込んだ。
自衛隊ってスゲー、さすがニッポンだ、スゲーよスゲーよ、指につまんでいたキャラメルコーンを思い出し、ナタガラは口に放り込んだ。
まだニッポン国憲法は変更されていなかった。
リモラは、自衛隊は軍隊でないから合憲だと思い、ナタガラは軍隊が必要だから自衛隊は合憲だと思っていた。
リモラはまだ、軍隊が必要だと思っている自分に気付いていなかった。
いずれにしても、二人は自衛隊が好きだった。国に命を捧げる自衛隊員に憧れていた。じゃがりこサラダとキャラメルコーンを食べながら、二人は、嬉しかった。今 画面に映し出される光景に心を奪われていた。
センカク上空に紙吹雪が舞い始めた。
「またヤッコさんたち、チラシを撒きはじめましたよ。」
「内容はどうせ同じだろうが、拾って来い。」
10分後。
「それにしても、こんなに紙を無駄にして、奴らは環境破壊のカの字も知りませんね。またこれでした。」
「ほんとにな。日本は盗人だ、中国が発明したものを何の許可も得ずすぐにマネする、って言いたいんだろうよ。新幹線を中国が盗んだって葛西ナニガシが世界中あちこちで言いふらしたからって、これはネーよな、ホント。」
ビラには「©」マークが並んでいる。漢字にすべて、この著作権マークが添えられているのだ(さすがに平仮名は見逃してくれた)。「この紙は、中国で発明された製紙技術をもとに製造されています。」と添え書きがある。
ビラには
貴殿たち、非戦闘員を我が軍は殺傷したくない。速やかに投降されたい。
戦力と認められないまま、我が軍と交戦することとなった貴殿たちを憐れむ。
軍隊として対等に扱われることを望み、戦闘を望むのであれば、ニッポン国憲法を改正し第9条2項の“陸海空その他の戦力は、これを保持しない。”を削除するように。
と書かれている。
「シナ、卑怯だぞ! なーにが、戦闘を望むのであれば、だ!俺たちを包囲して一体 何年になる。3年だぞ、3年。このヤロー。戦闘を望んでいるのはお前らだろー」と、ビラを床に叩きつける青年は、名をキズスと言う。
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